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集中講義・課題提示レポート(200412)

「世代間で平等な選挙制度」

九州大学21世紀プログラム一年次在籍

鬼海 あゆみ

 

 

問い: 世代間での価値観・善き生の構想の相違は現在の政治に適度の影響を与えているのか?

    ―橋本先生の「30歳以上に選挙権」案について―

 

説明:

橋本先生の「四つの選挙権」案では「基本的選挙権」と「経済的選挙権」について選挙権の取得について30歳以上とされている。そして生計の自立=成人とみなすべきだという意見が展開されている。しかし、そもそも人間が大人になる要素は経済状況や社会的評価などの外的影響にではなく、本人の内面的な成長に大きく依存すると考える。したがって所得税を支払い、社会的に認められたからといって成人としての自立を果たしたとはいえないのではないか。成人の概念にはさまざまな考え方があり、何を以って成人したと判断されるのかについてははっきりと決められないし、政治的判断力の有無はどれほど議論したところで年齢だけでは判断できない。確かに現在、20歳になっても政治経済に関する知識が乏しく、また政治的関心も薄い若者が増えている。しかし選挙権を30歳にひきあげるということはそれらの人に政治的影響力を与えないという点では有効かもしれないが、彼らがさらに政治的インセンティブを失ってしまうことが懸念される。橋本先生の案では30歳未満であっても「市民的選挙権」「公民的選挙権」を行使することができるので、この問題は解決するとされるかもしれないが、私はそうは思わない。卓越主義的な意見になってしまうかもしれないが、国家に求められているのは選挙権取得のハードルを上げて国民の政治的関心・判断を引き上げることではなく、本来の国民の潜在性を開花・開発させるように努めることであると考える。「ついてこれる人だけついてきなさい」という姿勢だけでは、多くの国民は途中でリタイアしてしまうだろう。また、選挙権を30歳以上に引き上げると、中卒・高卒で働いている労働者の意見は10年以上無視されることになる。

また、世代間の価値観の違いが広がっているという問題もある。現代の日本社会は高齢化に伴い、10代から70代・80代の高齢者まで労働者として社会に関わっているが、戦後の日本社会の大きな変容は世代間での価値観の相違をもたらし、善き生についての構想の違いは、どのような政策に重点を置いているかという政治的関心にも関わってくる。つまり、世代ごとで注目する、あるいは改革を必要とする政策が異なる。しかし、高齢化・少子化の進む現在、政治の中にはそれらの世代間での価値観の相違が考慮されていないように感じる。世代ごとの人口比を見てみると、0〜19歳 19.2%、20〜39歳 27.4%、40〜59歳 27.1%、60歳以上 26.1%(総務省統計局発表 平成16年7月1日現在)となっており、現在でも若年層よりも老年層のほうが多数を占めている。現在0〜19歳のカテゴリーに属し選挙権を持っていない人たちが選挙権を持つ頃には、老年人口比が今よりもさらに大きくなり、政治に対する影響力も老年層が握るようになる可能性がある。つまり世代間での政治的影響力に格差が生まれてしまい、さまざまな世代の意見を平等にくみ取ることが難しくなるのではないかと考えられる。また若年層の投票率は壮年層・老年層のそれに大きく劣っているために、老年層・壮年層に関する、あるいはそれらの人々の関心が高い政策が各政党で最優先の政策になってしまい、政策に偏りが生じている。例)年金制度問題>教育制度改正問題

 

解決のための案:

 以上の問題を解決するために私が提案したいのは選挙権取得の年齢を高校卒業後、高校に進学しなかった人に対しては18歳に引き下げることである。人生80年だからこそ、私は選挙権の年齢引き下げが必要であると考える。先に述べたように、日本社会では価値観の多様化が進んでおり、円滑に政治を行うには幅広い意見を求めることが必要になっている。選挙権を行使する年齢の偏りは重視される政策の偏りをひき起すため好ましくないが、日本社会はすでに人口的に若年層にとって不利な体制になっている。これを解決するためには若年層の選挙権行使者の数を増やすことが最も有効であるが、その方法には2通りある。一つ目は現在の制度で選挙権を有している人の政治的関心をあおり、投票率を上げることである。二つ目は、現行の制度では選挙権を与えられていない20歳未満の人々の政治的関心・判断力を高め、彼らに選挙権を与えて若年層の選挙権行使者の人口を増やすことである。この2つの方法をあわせて実施することで、より高い効果を期待できるが、前者については既に多くの人がその必要性について認識していると思われるので、ここでは後者について言及することとする。

 まず、なぜ高校進学者には高校卒業後、それ以外のものには18歳から選挙権を与えるとよいのかという点についてだが、高校進学者の場合、高校3年生になると多くの者は自分自身の将来についての大きな選択をすることを迫られる。そしてその選択を通して、社会の中の自分という存在というものを意識する。あるいは意識せざるを得なくなる。これらの過程を経たものは、もう既に適切な社会的判断が可能であるとみなしてよいと考える。したがって高校に進学した者にとって重要なのは「卒業後の自分自身の将来について選択した」ということであって「18歳」という年齢ではないため、高校進学者においては選挙権の付与を高校卒業後とすることが望ましい。ただし、高校に進学しなかった者については既に「社会と向き合って自己について考える」過程を経たと判断し、18歳以上に選挙権を付与するのがよいだろう。そうすれば中卒の社会人も経済的自立の後、2〜3年程度で選挙権を得ることができる。

 ここで重要なのは、選挙権の取得年齢引き下げは義務教育課程での公民教育や道徳教育の改革とともになされなければならないということである。つまり、私の案で選挙権を有するようになる人々の政治的判断力を、少なくとも現行の制度で選挙権を有している人々のそれと同程度まで高めなければならないという役目は義務教育が負うべきである。しかし、この場合、橋本先生の案の市民的選挙権・公民的選挙権の場合とは異なり、新しい選挙制度をふまえた義務教育カリキュラムへの再構築を行い、選挙権取得年齢引き下げを実施するのにはさほど時間はかからないであろう。なぜならば、選挙権の取得年齢引き下げの場合、義務教育制度の改革を実施した約6年後には中学校三年間を新カリキュラムで過ごした人が選挙権を獲得し、約12年後には小学校から完全に選挙権取得年齢引き下げを考慮にいれた教育を受けてきた人々が選挙権を獲得するため、改革の成果が比較的短期間で現れるからである。したがって欠陥などもすぐに現れ、制度の試行錯誤が促進される。

 以上のように私の案は、選挙権取得のハードル(年齢)を下げ、同時に義務教育課程の公民教育や道徳教育を、選挙権行使を想定したものに変えることによって、より多くの国民を政治に巻きこみ、あらかじめ政治的インセンティブを与えて、その後各個人の自主的な政治判断の向上を期待するものである。この案にはまだ多くの欠陥があるが、これからますます深刻化していくであろう少子化を考えた場合、世代間で平等な選挙・政治について意識することは重要であると考える。